ヒューリスティック分析とは?分析精度を高める4つのポイント|ウェブ部

ヒューリスティック分析とは?分析精度を高める4つのポイント

Webサイト構築

ウェブサイトのリニューアルを行う際、事前調査にはさまざまな手法がありますが、その中でも欠かせないのがヒューリスティック分析です。これはユーザビリティ(使いやすさ)を評価する手法の1つで、ユーザビリティの専門家が自身の経験則に基づいてウェブインターフェイスを評価し、サイトの課題を抽出する際に活用されます。

原則として、ヒューリスティック分析は専門家が行うものですが、いくつかのポイントを押さえれば、簡易的な調査を自社内で実施することも可能です。これを自前で行えるようになれば、予算や時間が限られている状況下でも、ウェブサイトの改善提案書や社内稟議書の作成、さらには簡易的な改修点の抽出など、幅広い場面で活用できます。本稿では、ヒューリスティック分析を行う際のポイントを紹介します。

ヒューリスティック分析とは?

ヒューリスティック分析は、ユーザビリティの問題を発見し、ウェブサイトやアプリケーションの改善策を見つけるために使われる手法です。この手法は、専門家の経験や知識に基づいて行われ、分析者の主観的な評価をもとにユーザー体験の向上を目指します。ユーザーテストや被験者を必要とせず、短期間で問題点を明らかにできるため、効率的に課題を抽出してサイト課題の仮説を立てるのに適した手法といえます。

ヒューリスティック分析の3つの特徴

ヒューリスティック分析には、下記のような3つの特徴があります。

1.主観的な評価に基づく迅速な分析手法
ヒューリスティック分析は、専門家の経験や知識に基づき、ユーザビリティの問題を短期間で発見できる手法です。ユーザーテストを必要とせず、コストを抑えながら迅速に評価が可能です。
2.客観性の不足と補完手法の必要性
分析者の主観に依存するため、正確性や客観性に欠けることがあります。そのため、ユーザーテストやアクセス解析データなどの定量的データと組み合わせて仮説を検証し、信頼性を高めることが重要です。
3.AIによる精度の向上
近年、AI技術の進化により、過去のユーザーデータや行動パターンを解析し、より客観的かつ精度の高い分析が可能になっています。AIを活用することで、ヒューリスティック分析の弱点を補い、効率的な改善策を導き出せます。

近年、AIや自動化ツールの進化により、ヒューリスティック分析も大きく変化しています。これまで主観的な判断に依存していた部分を、AIが過去のユーザーデータや行動パターンを学習し、客観的に補完することができるようになりました。たとえば、AIはユーザーの動作データやヒートマップを解析し、潜在的なユーザーインタラクションの課題を自動で提示してくれるため、分析者の経験値だけに頼らない、より精度の高い分析が可能となっています。

ヒューリスティック分析、ユーザ調査、アクセス解析の違い

 

ヒューリスティック分析は、主観的な評価をもとに迅速に課題を明らかにし、AIやデータ分析と組み合わせることで、企業にとって効果的な改善策を導き出すツールとして大変強力な武器となります。ただし、ヒューリスティック分析は依然として分析者の知識や判断に依存する部分が多いため、AIによる分析結果と人的な視点を組み合わせることで、より包括的かつ精度の高い分析手法の一つとして取り扱う事が重要です。

ヒューリスティック分析の精度を高める4つのポイント

ポイント1「調査前提の決定」

まず、ヒューリスティック分析を行う前に、分析を行うための「調査前提」を決めていきます。
これは、サイトの位置付けを明確にし、評価軸を決めるための基準となります。
調査の前提として決定しておくべき事柄は、下記の5つが挙げられます。

1.サイト目的の設定
2.ターゲットの設定
3.競合の設定
4.端末の設定
5.調査対象ページの設定

順にご説明していきましょう。

1)サイトの目的の設定

最初に、分析対象サイトの目的となる達成したいコンバージョンを明確に設定します。
これが全体の評価や最終的な成功指標を決定するため、最も重要なステップです。

たとえば、ECサイトであれば商品購入を促進することが主なコンバージョンとなり、情報サイトであればユーザーに正確な情報を提供することが目標となるコンバージョンとなります。

購入、会員登録、資料請求、求人応募、パートナー応募、ブランド理解、共感醸成など、サイトで達成したいメインのコンバージョンとサブのコンバージョンを設定しましょう。ただし、目的を複数設定しすぎると、サイトの方向性が曖昧になり、『二兎を追う者は一兎をも得ず』という状況に陥りがちですので、注意が必要です。

2)ターゲットの設定

次に、サイトを訪問する閲覧者の属性を設定しましょう。
性別、年齢層、趣味嗜好、年収、家族構成、職業など、どの層を主な対象にするかを絞り込みます。より詳細なターゲットイメージ(ペルソナ)を設定することで、評価基準が具体化しやすくなります。例えば、『20代~50代男女』のように幅広いターゲット層を設定すると、嗜好が大きく異なる『23歳女性』や『39歳男性』も含まれてしまうため、サイトの特色が薄れてしまい、明確な印象を与えにくくなります。
したがって、『25歳派遣社員の女性、年収250万円』のようにターゲットが明確であればあるほど、具体的で実践的な改善提案が可能になります。

3)競合の設定

自社サイトと競合すると考えられる競合サイトを設定します。
製品・サービス上の競合を中心に、3~5件程度を抽出します。この際、抽出するサイトは、自社サイトよりもデザイン性が優れていると感じられるものや、ビジネス上で成功している競合を選ぶと、『見習うべき課題』が抽出しやすくなります。複数のサイトを斜め読みし、検証対象を絞り込むことが必要です。ここで注意すべきは、上記1)〜2)の目的が同一の競合でないと、効果的な比較が難しいという点です。例えば、『人材紹介会社』という大きなカテゴリ内で競合していたとしても、自社のターゲットが事務系の女性社員で、競合がエグゼクティブをターゲットとしている場合、訴求内容が異なるため、同じ基準での比較が困難になります。同じ業界内でも、目的が一致する競合かどうかを考慮してください。競合との違いや強み・弱みを理解することが、改善のヒントにつながります。

4)端末の設定

自社サイトがPCだけでなくスマートフォンなど複数の端末に対応している場合、調査の範囲をスマートフォンサイトまで広げるかどうかを決定します。スマートフォンでの調査は、PCと比べて時間がかかるケースが多いため、リソースの状況に応じて、まずはPCサイトに限定して調査を行い、その結果に基づいて調査範囲をスマートフォンにも広げることを検討しましょう。

5)調査対象ページの設定

ヒューリスティック分析を行う際、最初に調査対象となるページを設定することが重要です。特に大規模なサイトの場合、全ページを分析することは現実的ではないため、効果的に問題点を洗い出すために優先すべきページを選定する必要があります。

Q.何を基準に選定したらいいの?

A.調査対象ページを選定する際は、まずサイトの目的を基準に考えます。
たとえば、ECサイトであれば、購入完了までの主要なユーザー動線となるページ(トップページ、商品詳細ページ、カートページ、決済ページ)を優先的に選びます。また、情報提供型のサイトであれば、最もアクセス数が多いページやコンバージョンに繋がるページ(お問い合わせページや資料ダウンロードページ)が調査対象になります。このように、ユーザー行動において重要な役割を果たすページを基準に選定することが基本です。

Q.優先順位の付け方はどうすればいい?

A.優先順位を付ける際には、以下の基準を考慮しましょう。
1.ビジネス目標への貢献度: まず、ビジネス目標に直結するページを優先します。たとえば、商品の購入や会員登録といった主要なコンバージョンに関与するページが最優先です。
2.ユーザーの滞在時間や離脱率: 次に、ユーザーが長く滞在するページや離脱率が高いページも重要です。これらのページに潜むユーザー体験の課題を見つけ、改善することが、サイト全体の成果向上に繋がります。
3.アクセス数やトラフィック: アクセス数が多いページや、主要な流入経路となるランディングページも優先的に分析するべきです。これらのページの改善が、全体のパフォーマンスに大きな影響を与えます。

このように、調査対象ページの選定と優先順位を明確にすることで、ヒューリスティック分析の効果を最大化し、効率的な課題抽出と改善提案が可能になります。

ヒューリスティック分析_何を調べるか決めよう

 

ポイント2「評価軸の設定」

自社サイトと競合サイトを比較するための評価軸を設定する際、評価基準として「ニールセンのユーザビリティ10原則」が広く知られています。米国の工学博士ヤコブ・ニールセンが提唱したこの原則は、ユーザビリティの視点から非常に有用です。ただし、サイトの目的や特色によっては、これらの指標がそのまま適用されるわけではありません。

「ニールセンのユーザビリティ10原則」(参考)

1.システム状態の視認性を高める
2.実環境に合ったシステムを構築する
3.ユーザーにコントロールの主導権と自由度を与える
4.一貫性と標準化を保持する
5.エラーの発生を事前に防止する
6.記憶しなくても、見ればわかるようなデザインを行う
7.柔軟性と効率性を持たせる
8.最小限で美しいデザインを施す
9.ユーザーによるエラー認識、診断、回復をサポートする
10.ヘルプとマニュアルを用意する

※出典:ニールセン ノーマン グループ「10 Usability Heuristics」より

例えば、「ニールセンのユーザビリティ10原則」の一つである「3.ユーザーにコントロールの主導権と自由度を与える」について、申込フォームにおいてこの原則を厳密に適用すると、途中離脱を引き起こしかねないバックボタンの設置や、サイト内の他ページへのリンクが推奨される場合があります。しかし、申込フォームの主な目的がコンバージョンである場合、こうした要素が逆に離脱の要因となり、ビジネス目標と合致しない可能性があります。

このように、ニールセンの指標は非常に参考になりますが、サイトの目的に応じた柔軟な適用が重要です。特に、サイトの目的やユーザーの行動特性に基づいて評価軸を設定することが、より正確で実態に即したヒューリスティック分析を行うためのポイントとなります。

どの様にして評価軸を決めるべきか?

では、評価軸はどのように決定すべきでしょうか。一般的なサイトにおいては、以下の基本項目を元に、前述の「調査前提」に基づいてカスタマイズすることをおすすめします。

1.ブランド訴求:サイトが提供するブランドのイメージや価値が適切に伝わっているか。
2.目的誘導:ユーザーがサイトの主な目的(購入や登録など)をスムーズに達成できるか。
3.集客貢献:サイトが新規ユーザーの集客にどれほど貢献しているか。

この際、あまり多くの項目を評価軸に含めると、サイトの目的に対して重要でない要素まで評価してしまい、全体のフォーカスが曖昧になる可能性があります。また、SEOなどの専門的な領域については、社内リソースで判断できる範囲に絞ることも検討すると良いでしょう。

また、SEOなどは専門知識が求められるため、判断が難しい部分もあります。そのため、社内リソースで十分に対応できる項目に絞って評価することも一つの考え方です。

次に、一般的なサイトの目的別に評価軸となる要素をリストアップしました。各サイトの目的に応じて、適切な評価軸を設定することが、効果的なヒューリスティック分析を行うための重要なステップです。たとえば、ECサイトでは『購入プロセスのスムーズさ』が主要な評価軸となる一方、情報提供型のサイトでは『情報の信頼性』や『アクセスの容易さ』が重要な評価項目となります。以下の表は、代表的なサイトを目的ごとに評価軸を整理したものです。

1)ブランド訴求

優位性/特色の訴求 競合との違いや優位性を数字や実例で端的に表現できているか。
デザイン性 デザインのトーン&マナーは統一されているか。デザインにメリハリはあるか。配色は伝えたいイメージを体現しているか。色数を多く使い過ぎていないか。など。
見やすさ 見出しが短文で解りやすい、余白、アイコンの有無、図表の適切な挿入など。
理解・共感の獲得 ターゲット目線でコンテンツが制作されているか。興味関心を引く要素を設けているか。信頼を醸成するための文章を適切に配置しているか。第三者の評価(ユーザーの声など)が設置されているか。

2)目的誘導

ナビゲーション グローバルナビやサイドメニューの項目は端的で解りやすいか。各メニューの項目数は把握しやすいか。第2階層に直接誘導する導線は設定されているか。など。
成果ページへの誘導 各ページ下部にコンバージョンさせるためのボタンは設置されているか。コンバージョンさせるための動機づけは適切か。コンバージョンボタンは適切に配置されているか。
フォーム/カート設計 EFOを導入しているか。取得項目は極力少なくしているか。離脱につながるリンクは削除しているか。
検索性 商品や情報を検索する複数の手法が用意されているか、そのナビゲーションは使いやすいか。

3)集客寄与

SEO キーワード設定は適切か。メタタグは設定されているか。h1タグは適切か。サイト内相互リンクを張っているか。
集客コンテンツ 集客に寄与するコンテンツを設けているか。被リンクを獲得する仕組みを設けているか、ニュースサイトに引用される要素を設けているかなど。
SNS連携 ソーシャルボタンは設置されているか。SNSで拡散する仕組みは設けているかなど。

ポイント3「レビューの進め方」

評価軸を決定したら、実際に各調査対象のサイトを確認しながら分析を行いましょう。
レビューは、ウェブに関する専門的な知見を持つメンバーを含めた少人数のチーム(3~5人)で行うことが推奨されます。人数が多くなりすぎると、対立意見が増えて議論がまとまらなくなるなどの弊害が発生する可能性があるためです。

レビュー時には、プロジェクターや大画面モニターに調査対象のサイトを表示し、良い点・改善すべき点を出し合います。この際、意見の矛盾(例:グローバルナビゲーションが「見にくい」「見やすい」といった対立意見)が生じた場合、その場でどちらの意見を採用するかを無理に決定しないことが重要です。最終的には、事前に定めた評価軸に基づき、資料をまとめる担当者が客観的に判断し、結論を導き出します。

また、調査対象のページ数が多い場合は、トップページ、商品詳細ページ、申込フォーム、カートなど、サイトの目的達成に大きく関与するページを優先して抽出し、重点的にレビューを行います。

ポイント4「資料への反映」

資料のまとめかたはいくつかありますが、全体傾向と個別ページの課題の抽出を行う際のフォーマットをご紹介します。

1)調査概要

情報を整理して重要なポイントが強調出来るように箇条書きで調査内容を記載します。以下の例のほかにも「評価項目」や「個別ページの課題」などの項目があれば尚良いでしょう。

ヒューリスティック分析_調査例概要

2)ページ詳細分析

自社サイトの個別ページのメリットとデメリットを記載します。比較ではなく、課題の抽出のみに特化する場合は、デメリットのみの記載に留めます。

ヒューリスティック分析_例

3)競合ページ

競合サイトのページは、ヒューリスティック分析を通じて自社サイトの改善点を明確にするための貴重な比較対象となります。競合サイトと自社サイトの差異を把握し、競合の強みを取り入れることで、全体的なユーザー体験の向上が期待できます。資料に反映する際には、競合ページの評価結果を以下の観点でまとめると効果的です。

資料への反映のポイント

1.UI/UXの違い
競合サイトとのUI/UXの違いを具体的に指摘します。例えば、競合サイトが持つユーザーインターフェースの優れた要素(ナビゲーションの分かりやすさ、ボタンの配置、視認性の高さなど)を取り上げ、自社サイトと比較します。どのように競合がユーザーの操作性を向上させているのか、また自社で参考にすべき点は何かを明確にします。

2.コンバージョン促進の仕組み
競合ページがどのようにコンバージョンを促進しているかを分析し、フォームやボタン配置、プロモーション要素などに焦点を当てて比較します。自社サイトで取り入れるべきポイントをまとめ、競合がどのようにユーザーを最終的なアクションに導いているのかを評価します。

3.SEOの取り組み
競合ページのSEO対策についても資料に反映します。特に、競合がどのようなキーワードを使い、どのようにコンテンツを最適化しているかを分析し、自社で強化すべきSEO戦略を明確にします。これにより、検索結果での順位を競合と比較しやすくなります。

4.ユーザビリティの違い
競合サイトが持つユーザビリティの特徴を評価し、自社との違いを反映します。たとえば、エラーの回避方法や、ユーザーのフラストレーションを減らすための工夫など、競合が実践している優れた点を具体的に提示し、自社で導入できる改善策を検討します。

自社サイトの各評価軸別のポイント抽出と、相対評価でつけた〇×△での各社比較、総論などで構成します。

ヒューリスティック分析_競合調査例

ヒューリスティック分析_競合比較例

AIによるヒューリスティック分析の登場

本記事で述べたように、AIや自動化ツールの進化により、ヒューリスティック分析は大きく変化しています。AIの導入によって、従来の分析者の主観に依存していた部分が、データに基づく客観的な視点で補完されるようになりました。これにより、過去のユーザー行動データやパターン認識を活用して、潜在的なユーザーの課題を自動的に検出することが可能です。例えば、クリック率や滞在時間などのユーザーデータをAIが解析することで、デザインやユーザーインターフェースのどの部分がユーザー体験に悪影響を与えているかを迅速に特定できます。

さらに、AIツールはリアルタイムでのフィードバックを提供するため、ヒートマップ解析やユーザーデータの迅速な処理が可能になり、より精度の高い分析結果を短時間で得られます。とはいえ、AIがもたらす効率化に加え、人的な知見や経験の重要性は依然として残っています。AIが提示するデータをどのように解釈し、どのような改善策を講じるべきかを判断するのは、最終的には人間の役割です。AIによる自動化と、人の知識や判断を組み合わせることで、より包括的で効果的なユーザー体験の改善が実現するでしょう。

今後、AI技術のさらなる進化により、ヒューリスティック分析もますます高度化することが期待されます。企業はAIの力を活用しつつ、分析者の経験と知見を最大限に生かすことで、ユーザーにとって最適な体験を提供できるでしょう。

まとめ

ヒューリスティック分析_ユーザ調査レポート例

冒頭でも触れましたが、ヒューリスティック分析は本来専門家が経験則で行うためのものなので、慣れない間は完全にはできない場合もあるかと思います。その際は、評価対象や項目を絞るなどの工夫で、簡易的なレポートを仕上げることも方法の一つです。また、ヒューリスティック分析で抽出した課題の裏付けを取るには、ユーザー調査やGA4などのアクセス解析などが有効です。

特に、実際のターゲット属性に該当する被験者を集めて実施するユーザー調査は、潜在的なニーズを発見するのに非常に有効です。ヒューリスティック分析と併用することで、より精度の高い課題抽出が可能となります。予算に余裕がある場合は、これらのサービスを提供する専門会社に依頼することも検討すると良いでしょう。

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