代理店などの外注を頼らず、広告運用を自社内で行うことを「インハウス広告運用(インハウス化)」と言います。
デジタル広告をインハウス運用にしたいけど、「どうしたらいいかわからない」「メリット・デメリットは何?」「代理店運用との違いは何?」と悩む担当者もいるでしょう。
この記事では、デジタル広告の運用を「インハウス運用」か「代理店運用」にするか検討する際に考慮する4ステップと、「インハウス運用」と「代理店運用」それぞれのメリット・デメリットを紹介します。
目次
インハウスの広告運用が最適解ではない
デジタル広告の運用をインハウス化するか代理店に任せるべきか、悩む方も多いでしょう。
その企業が目指す姿や現在の状況によって、どちらを選ぶことが正解なのかは異なります。
インハウスで広告運用を行っていても、知見のある人間が辞めてしまえばノウハウが失われてしまい苦戦することもあります。
また広告運用を代理店に任せていても、社内に知見が蓄積されないといったこともあるでしょう。
そのため、インハウスの広告運用と代理店の広告運用のどちらが正解とは一概には言えません。
次の項では広告運用を検討している企業が、インハウスの広告運用と代理店の広告運用のどちらが最適なのかを判断するために、必要なステップについてお話しします。
インハウス運用(インハウス化)か代理店運用かを決める際の重要な4ステップ
この章では、インハウス運用か代理店運用かを決める際の重要なポイントを、4つのステップに分けて紹介します。
【STEP1】 代理店・インハウスのメリットとデメリットの把握
広告運用を行う方法には「代理店運用」と「インハウス運用」の2つがあり、それぞれメリット・デメリットがあります。
しっかり把握し、自社にとって最適な方法はどれか、検討してみましょう。
インハウスと代理店運用のメリット・デメリット
代理店に任せる場合のメリット
代理店に広告運用を任せる最大のメリットは、専門家が運用するため効果を最大化しやすいことです。
特にGoogleやYahoo!といった広告媒体とのつながりが強い代理店であれば、効果改善に活用できる最新情報や改善ナレッジが集まりやすく、常に最新の運用手法を実践してもらえます。また、同業界や他業界においての運用実績があるため、悪化要因や改善ポイントの把握が早く、最短距離で効果改善ができるでしょう。
特に、広告運用に特化している代理店では、入稿・運用・レポート作成といった広告運用に不可欠な作業を行う体制が整っているため、業務のスピードが速いことも大きなメリットと言えます。
代理店に広告運用を任せる場合のデメリット
代理店に広告運用を任せるメリットは多いものの、コストがかかることが1番のデメリットです。
代理店に任せる場合、平均で15%~30%の代理店手数料(マージン)が必要です。また当然ですが、広告予算が増える分だけ手数料も増えます。
他にも、担当者によってリテラシーにばらつきがあったり、代理店との付き合い方によっては自社に知見がたまらなかったりします。
「代理店に任せれば必ずうまくいくとは限らない」ことを知っておくことが大切です。
インハウスで広告運用を実施する場合のメリット
インハウスで広告運用を実施する1番のメリットは、コストを削減できることです。
代理店手数料(マージン)分を、自社の広告配信予算に回すことができます。
またすべて自社内で行うため、広告運用に関する社内の知見やノウハウがたまりやすくなることもメリットのひとつです。
自社に知見やノウハウがあれば、代理店に左右されずスピード感をもって施策のPDCAを回せるでしょう。
インハウス化で実施する場合のデメリット
インハウス運用を実施するためには人材の採用や教育はもちろん、入稿作業やレポート作成などの運用体制を整えるなど、社内体制の構築が必要です。新たに経験者を採用しても、退職リスクがあるため、なかなか社内体制が整わない恐れもあります。
またGoogleやYahoo!といった各主要媒体による直接のサポートがない場合、最新情報が得にくいのも事実です。その結果、最新の施策が実施できないといったデメリットもあります。
このようにデメリットはあるものの、インハウス運用のデメリット部分を補う体制を社内で構築できれば、代理店手数料の削減や知見ノウハウの蓄積といった多くのメリットが享受できます。
【STEP2】 広告運用を行っていく上で必要な要素についてしっかり把握
インハウス広告運用と代理店広告運用のメリット・デメリットが理解できたら、実際広告運用を行う上で必要な要素は何かを洗い出します。ここでは必要な要素を「戦略プランニング」「クリエイティブ」「配信オペレーション」「PDCA」の4つに分けて説明します。
戦略・プランニング
戦略・プランニングは「ターゲットの設定」「運用メディアの選定」「配信セグメントの決定」「アカウント構成の作成」の大きく4つのステップに分かれています。
(1)ターゲットの設定
ターゲット設定とは、自社の製品やサービスを購入・利用してほしいユーザ層を絞り込むことです。ターゲット設定をすることで、運用メディアや配信方法が明確になり、より効率的な広告配信ができます。
(2)運用手法・メディアの選定
運用手法・メディアの種類はさまざまです。代表的なものは、リスティング広告、ディスプレイ広告、SNS広告、アフィリエイト広告、動画広告、純広告などです。
(3)配信セグメントの決定
配信セグメントとは、年齢や性別、住所、興味関心など、ターゲットユーザの属性を指します。(1)のターゲットの設定に沿って配信セグメントを決定します。
(4)アカウント構成の作成
アカウント構成は主に「アカウント」「キャンペーン」「広告グループ」「広告・キーワード」の4つで構成されています。このアカウント構成は配信結果にも大きく影響するので、慎重に行います。
クリエイティブ
決定したターゲットユーザをもとに、訴求点を考えます。そして配信するメディアにあわせて、バナーや動画、LPなど必要なクリエイティブを制作します。
配信オペレーション
入稿に用いる素材の確認、媒体への審査依頼、タグの設定、配信結果を確認するためのレポート作成などが該当します。さらにクリエイティブの調整や差し替えなども、配信オペレーションに含まれます。
PDCA
ここまでお話ししてきた戦略プランニングやクリエイティブがどんなに優れていても、施策の振り返り検証(PDCA)を行わなければ効果の最大化につながりません。まずは、運用結果から「行った施策は適切だったのか」「どのくらい改善できたのか」といった分析をします。その上で課題や改善点を洗い出し、配信方法やクリエイティブなど新たな施策を考えます。
そして、新たな施策を実行→効果を検証する、といった流れを早く効率的に回すことで、期待する効果に最短距離で近づけることができます。
PDCAでチェックする項目は「メディア運用」「クリエイティブ」です。また、分析を可視化するために「レポート作成」の作業が必要になります。これらが、一定のレベルを満たせるよう社内体制を整えておきましょう。
近年、広告運用の自動化が進んでいますが、他社との競争に勝っていくためには自動化だけに頼ることなく、細かな運用メンテナンスとミスのない運用が必要となります。
【STEP3】 インハウス化が可能な組織体制を把握する
自社でインハウス化が可能かを判断するために、【STEP2】の要素ごとに最低限必要な人員がどれくらいか把握しましょう。
月間広告費100万円以上の広告運用した場合の組織体制例を紹介します。
(1)戦略・プランニング
プロジェクトマネジャーやプランナーといった専門家や経験者が就くポジションで、必要最小人数は1名。
(2)クリエイティブ
ディレクターやデザイナーが担当。ブランド毀損につながらないよう社内調整する人員も必要で、必要最小人数は2名。
(3)配信オペレーション
オペレーターが担当。毎日手作業でレポート作成していると工数がかかり、PDCAに回す時間がなくなることもあるため、レポート作成の自動化が必須。必要最小人数は1名。
(4)PDCA
各媒体のデータ分析や施策の洗い出し、改善要素の把握、施策の打ち手を考え実行していくポジション。専門家や経験者がPDCAを回すことが多く、必要最小人数は1名。
ただし、最小人数で行う場合は専門家として優秀な人間を採用し、配置することが重要です。そのため、自社に条件を満たす人員がいるのか、いない場合はいつまでに採用するのかといった部分もあわせて検討する必要があるでしょう。
【STEP4 】「完全インハウス運用」「代理店運用」「インハウスサポート運用」3つの選択肢から方針を決定
STEP3までできたら、以下3つの選択肢から方針を決めます。人的リソースと配置、また自社の状況を考慮したうえで判断しましょう。
3つの選択肢とは、自社内で広告運用する「完全インハウス運用」、自社外で広告運用する「代理店運用」、自社の運用を基本としながら代理店のサポートを受ける「インハウスサポート」です。
「インハウスサポート」について、次の項目で詳しく説明します。
3種類のインハウス化サポート
「インハウス化サポート」で提供されるサービスは企業によってさまざまです。ここでは、大きく分けて3つの例を紹介します。
(1)将来的なインハウス化を見据えた短期的な代理店運用
1つ目は、広告アカウントは自社内に残し運用は代理店が行うパターンです。
広告運用を代理店に委託するのは代理店運用と変わりありません。アカウントを代理店側ではなく自社の持ち物として開いておくことで、立ち上げを代理店に依頼し軌道に乗せてもらい落ち着いたところでインハウス運用に切り替える際、スムーズに移行できます。
(2)自社で補えない部分について部分的に代理店サポートを受ける
2つ目は、スキルや実運用体制、レポーティングといった、広告運用に必要な作業を部分的に代理店からサポートしてもらうパターンです。
例えばレポートを作成する場合、広告アカウントごとに管理画面にアクセスしレポートを作成する以外にも、Google AnalyticsやAD EBiSなどと紐づけを行う必要があるでしょう。これらの作業をすべて行うには多くの工数がかかり、場合によっては1日の大半の時間を費やすこともあります。
このような場合、各広告媒体とGoogle Analyticsの数値と紐づけたダッシュボードのツールを提供している代理店にサポートを依頼すると、レポート作成にかかっていた時間を大幅に削減できます。レポート作成の時間を大幅に削減できれば、戦略立案を考える時間に回すことができるでしょう。
(3)派生形としてインハウス運用と代理店運用をダブルアカウントで並行して行う
ダブルアカウントとは、Google広告やYahoo!広告などにおいて同じプロモーションを自社と代理店の2つのアカウントで行うことです。自社と代理店(もしくは代理店2社等)双方で運用して良いところを採用・共有することで、どちらか一方だけで運用するよりも早いスピードで知見が貯まるなどのメリットがあります。
まったく同じアカウントやキャンペーンをダブルアカウントで運用してしまうと、自社と代理店間でクリックの単価を上げ合うことになり、期待する成果が得られません。ダブルアカウントを実施するときは、対象商材を一部切り分ける、ターゲティングを変える、などするといいでしょう。
ダブルアカウントの事例
弊社でサポートしたダブルアカウントの事例を紹介します。
・ダブルアカウントを行った背景
A社はインハウスでFacebook広告を運用していましたが、CPA改善が頭打ちに。インハウスの知見向上とFacebook広告の効果改善がしたいと、広告代理店である弊社にダブルアカウントでの広告運用の依頼がありました。
■Facebook広告におけるインハウスと弊社(代理店運用)の違い
運用ポイント | インハウス | 弊社(広告代理店) |
最適化エンジンの活用 | リターゲティングタグ、コンバージョンタグのみの設定 | 階層に応じたタグの設定 |
ターゲティング | ブロード配信と興味関心のみ | 他社で実績のある顧客類似とリターゲティングを活用 |
クリエイティブ | 自社にて制作し、フィード用静止画バナーのみ配信 | 広告クリエイティブに特化した専門チームが制作。複数の広告フォーマットを検証し、効果のよいフォーマットに絞って配信
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■結果
広告代理店である弊社の運用では、手数料を加えてもインハウスよりCPAを改善することに成功。さらに、ターゲティングやクリエイティブ等、弊社内で得た成功例を他部署へ共有し、他社アカウントの改善に活用しました。
このように、インハウス広告運用でできていなかった施策や、気づけなかった改善点を知見として得られるだけでなく、効果改善が期待できることがダブルアカウントのメリットです。
代理店に広告運用を任せるポイント
インハウス広告運用が理想であるものの、自社内ですべて完結できる企業は少ないのが現状です。仮にインハウス広告運用を実施するとしても、少なくとも立ち上げ時はサポートが必要となることが少なくありません。
代理店を選ぶ際は下記の代理店に任せる場合の5つのメリットが、自社の事業規模や業界と合っているかどうか確認しましょう。
おさらい《代理店に任せる5つのメリット》
・「運用の専門家が運用する」ため成功の可能性は上がる
・「豊富な運用実績から」効果改善への最短距離、効果悪化の場合の対応に強い ・「売り上げを背景にメディアとのつながりが強い」ため情報収集力が高い ・金額規模にとらわれない、「代理店担当の媒体社にスムーズにサポートできる」 ・「運用体制が整っている」ため、入稿・運用・レポート作成を外注できる |
「」部分は特に、運用を専門家に任せる大きなメリットです。
また上記のメリットの確認とは別に、窓口となる担当者の方との相性も非常に重要です。伴奏してくれるスタンスがあるのかなどしっかりと確認しましょう。
まとめ
広告運用においてインハウス化も代理店利用も、それぞれメリット・デメリットが存在します。自社が目指す姿や現在の状況を踏まえ、自社にとって最適な運用方法は何か考え選びましょう。