Apple社のブラウザであるSafariには「ITP」が実装されており、Apple社により定期的にアップデートが行われています。「ITP」のアップデートにより、Web広告の配信やアクセス解析にどのような影響がでているのでしょうか。
この記事では、「ITPとは何か」からこれまでのITPの歴史、ITPがWeb広告に与える影響について紹介します。
目次
ITPとは
ITP(Intelligent Tracking Prevention)とは、Apple社のiOS11からブラウザ「Safari」に搭載されているサイトトラッキング防止機能です。ユーザのプライバシー保護のために、ITPではユーザの行動を追跡し分析するトラッキングの制限やユーザデータの蓄積を防止しています。
ITPの対象となるのは、ブラウザ「Safari」を利用し、インターネットを閲覧しているユーザです。
2021年1月時点における日本国内のスマートフォンブラウザシェアは、Safariが全体の約6割を占めています。多くのユーザが使用しているSafariへの規制は、Web広告の配信やアクセス解析に大きな影響を与えているのです。
ITPによるCookieの利用制限や行動データの取得は今後も強化される可能性があるため、最新情報をキャッチアップしつつ適切な対策が必要となるでしょう。
サイトトラッキングとは
サイトトラッキングとは、情報収集を目的にユーザの行動を継続的に記録することです。
サイトトラッキングでユーザのデータを収集することで、1回以上、自社サイトを訪問したユーザに広告を配信する「リターゲティング」や、広告経由のコンバージョン数を計測する「コンバージョン測定」が可能になります。
Cookieとは
CookieとはWebサイトから付与されるアクセス情報で、テキストファイルとして発行され、ユーザのデバイスに一時的に保存されます。
Cookieには、「ファーストパーティーCookie」と「サードパーティーCookie」の大きく2種類があります。
「ファーストパーティーCookie」は、訪問したサイトのサーバーから発行されるCookieです。訪問したサイトで収集した情報を保持するのが特徴で、例えばログイン時に使用するID・パスワードやECサイトのカート内情報などがあります。
一方「サードパーティーCookie」は、広告など訪問したサイト以外の第三者サーバーから発行されるCookieです。サードパーティーCookieは複数サイトをまたいでもユーザ情報を管理できる特徴から、リターゲティング広告や広告のコンバージョン計測に使用されます。
これまでのITPの歴史とアップデート内容
ITPはこれまでたび重なるアップデートを行い、Cookieの制限や削除の範囲を広げてきました。
どのように変化してきたのか、ITPの変遷を見ていきましょう。
ITP1.0
2017年9月にアップデートされたITP1.0は、サードパーティーCookieの利用が制限されるものでした。
過去に訪問がないユーザに対して、サードパーティーCookieを発行したあと24時間後に無効となります。また、有効・無効にかかわらず30日後に削除されます。
ITP1.1
2018年3月にアップデートされたITP1.1は、ITP1.0よりもサードパーティーCookieの制限を強化しました。
過去に訪問があったユーザであっても、サイト内遷移のない直帰ユーザのサードパーティーCookieは24時間後に削除されます。
ITP2.0
2018年9月にアップデートされたITP2.0では、大幅な変更がありました。
サードパーティーCookieの制限がさらに強化され、過去にそのサイトに訪れた事のないユーザでも、サイト内遷移がなく直帰した場合サードパーティーCookieは即時削除されます。これにより、サイト内遷移がないユーザへのリターゲティングが実質不可能となったのです。
さらに、ファーストパーティーCookieの利用制限が追加されました。
本来、ファーストパーティーCookieは、広告トラッキングに使用するものではありません。しかし、ITP1.1の環境下では、リダイレクトによりファーストパーティ Cookieを偽装したサードパーティーCookieを生成することで、トラッキングを行う広告媒体や計測ツールが多数存在していたのです。
このような背景により、4つ以上のサイトからリダイレクト(※1)されているファーストパーティーCookieは無効化され、即時削除の対象となりました。
また、アクセス解析のデータを取得する際などに、トラッカー(※2)として判断された場合、Cookieのリファラ情報(※3)を削除されます。
(※1)リダイレクトとは、指定ページから他ページへ転送させること
(※2)トラッカーとは、トラッキングするシステムや人といった第3者のこと
(※3)リファラとは、どこから来たかを示すリンクの元情報のこと
ITP2.1
2019年3月にITP2.1へアップデートされました。
ファーストパーティーCookieの利用制限がさらに強化され、JavaScriptを用いたファーストパーティーCookieの有効期限が最大7日間に変更されました。
ITP2.2
2019年4月にITP2.2へのアップデートされました。
ファーストパーティーCookieの利用制限がさらに強化され、JavaScriptを用いたファーストパーティーCookieの有効期限が1日に短縮されました。
ITP2.3
2019年9月にITP2.3へアップデートされ、ファーストパーティーCookieの利用がさらに制限されました。
広告媒体の中には、Local Storageなどの保存領域を使用してトラッキング情報を蓄積しているものもありましたが、Cookie以外のストレージデータの使用についても最大7日間に制限されたのです。
また、何らかのクエリパラメーターやフラグメント付きのURLでアクセスがあった場合も、保存されたデータは7日間で削除されます。
2019年9月にアップデートされたITP2.3は、2019年12月と2020年3月に機能が追加されています。
2019年12月に追加された機能
サブドメイン間遷移があった場合、取得できるリファラはドメイン単位までとなり、トラッカーと判断されるかどうかに関わらずサードパーティーCookieは即時削除となります。
2020年3月に追加された機能
サードパーティーCookieは完全にブロックとなりました。
さらに、サイトに7日間遷移がない場合、すぐに利用可能なストレージデータが削除となります。
削除対象となるストレージデータは、Webページのデータの保持に使用されるようなLocalStorage,Indexed DB,Media keys,SessionStorageなどです。
Safariではない、ホーム画面に追加されたアプリ内データは削除対象となりません。
iOS14のアップデート内容と、Cookie規制・広告への影響
iOS14では、どのような機能が追加され、Web広告にどのような影響が起きているのかについて詳しく見ていきましょう。
iOS14のアップデート内容
iOS14のアップデート内容は以下の3つです。
・IDFA利用にはユーザの同意が必要となる
・非バウンストラッキング機能が追加される
・ITPの対象にアプリ内ブラウザも追加される
IDFA利用にはユーザの同意が必要となる
IDFAとは、Apple社がユーザの端末へ個別に割り当てている広告用識別子で、1つの端末に対し1つのIDです。
IDFAにより、Webサイトやアプリ間でも同一ユーザとして識別ができます。
広告運用にIDFAを利用することで、正しい行動履歴の計測や、データをもとにしたリターゲティング広告の配信が可能です。
しかしiOS14のアップデートにより、すべてのアプリにおいてデフォルト設定ではIDFAの取得はできず、IDFAを利用するためにはアプリごとにユーザの同意が必要となっています。
非バウンストラッキング機能が追加される
サイトの遷移時にCookieを判別不能にする機能である「ITP」に加え、iOS14のアップデートによりバウンストラッキングを無効化する機能が追加されました。
バウンストラッキングとは、Webサイトをリダイレクトすることによって、データ計測を可能にする方法です。
ユーザがサイト内リンクをクリックし、他のページへ遷移する際に元のサイトもしくは媒体ドメインにリダイレクトすることで、サードパーティーCookieをファーストパーティーCookieと認識できます。
非バウンストラッキング機能の追加によって、これまで計測できていたデータの取得や、ユーザの追跡ができないといった影響が考えられます。
ITPの対象にアプリ内ブラウザも追加される
ITP対象はこれまでSafariのみでした。
しかし、iOS14のアップデートにより、Google ChromeやYahoo!JAPANといったアプリの中でWebサイトを表示する際にもITPが適用されます。
アプリ内ブラウザ以外でも、FacebookやTwitter、LINEといったアプリ内のリンクをクリックし閲覧したWebサイトもITP対象です。
iOS14のアップデートによるWeb広告への影響
iOS14のアップデートによるWeb広告への影響は以下の3つです。
・リターゲティング広告の配信制限される
・ターゲティング広告の精度が低下する
・コンバージョン数が正確に計測できなくなる
リターゲティング広告の配信が制限される
リターゲティング広告は、Cookieに保存された情報をもとに、一度Webサイトに訪問したユーザへ配信する広告を指します。
しかし、ITPの変更によりサードパーティーCookieは完全にブロック、ファーストパーティーCookieも有効期限が1日に短縮されたことで、アプローチできるユーザ数が大幅に減少します。
これにより、過去にサイトへ訪問したユーザに配信する方式のリターゲティング広告は機能しなくなりました。
さらに、IDFAの取得にユーザの同意が必要になったことで、広告のトラッキングを許可しないユーザの増加が懸念されます。
この変更によって、広告のターゲティング対象となるオーディエンスサイズが小さくなったり、ターゲティングすべきユーザの判別がしにくくなったりと、リターゲティング広告の広告配信機会や配信量が制限されるでしょう。
ターゲティング広告の精度が低下する
ターゲティング広告は、取得したユーザデータや行動データを利用して、狙ったユーザに対し広告を配信する仕組みです。
しかし、Cookieの有効期限短縮やIDFAの利用同意必須化によって、これまで収集できていたユーザの年齢や性別、関心の高いジャンルといった属性情報や行動履歴が取得しづらくなります。
配信できるターゲットが少なくなることで、本来のターゲットよりも遠いユーザや同じユーザに何度も広告を配信してしまうことが起こり得るのです。
このように、iOSのアップデートにより、興味関心・類似ターゲティングの配信精度が低下することが考えられます。
コンバージョン数が正確に計測できなくなる
広告配信では、ユーザが広告をクリックした後、一定期間内に購入や問い合わせといった「目標」においた行動をすると、コンバージョンとして計測される仕組みとなっています。
しかし、ITPやiOSのアップデートにより、Cookieの計測可能期間が大幅に短縮されただけでなく、Cookieの制限につながる機能が追加されました。
そのため、Cookieの保存期間を過ぎた後に目標に至ったとしても、コンバージョンとして記録されないケースが発生しているのです。
これらの影響により、Googleアナリティクスや広告媒体の管理画面上では、コンバージョン数のデータを正確に計測できない事象が起きやすくなるでしょう。
iOS15のアップデートによるWeb広告への影響
- ターゲティング広告の表示・非表示の選択が可能となる。(ポップアップで表示)
- メールプライバシー保護の搭載
Apple純正アプリにおいて、ポップアップでターゲティング表示・非表示についてユーザが選択できるようになりました。
なお、2022年5月のApple社の発表によると、「App StoreにおけるiOS15及びiPadOS15の検索ボリュームの78%がターゲティング広告が無効にされているデバイスからである」つまり、8割近いユーザがターゲティング広告を非表示にしていていること明らかにしました。
また、「メールプライバシー保護」の機能も新たに搭載されました。Apple社の標準メールアプリを使用している場合、ユーザのアクティビティ(開封日時、デバイス、IPアドレス等)が、メールの配信元である企業に提供されなくなります。メールマーケティングを実施している方には、施策の実績数値が正しく出なくなるといった影響が出るでしょう。
まとめ
Googleの発表によると、2022年に予定されていた「Chrome」のサードパーティーCookieの廃止は2023年に延期となりました。
このように、プライバシー保護の観点からApple社による制限・規制に関するアップデートは今後も続くと予想されます。しかし、ITPやiOSのアップデートがWeb広告の配信や正確なデータ計測に与える影響は大きく、広告を扱う企業は何かしらの対策が必要です。
Apple社や各広告媒体の最新情報をチェックするとともに、適切な対策をしましょう。