DX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が登場して早数年、マーケティング領域においても、日々プロダクトや成功事例が出てきている一方で、その向き合い方に悩まれている、情報収集で終わってしまっているマーケティング担当者も多いことだろう。
本連載企画では、そんなマーケティング担当者に向けて、マーケティングDXにおける本質的な課題と、何から始めるべきかを、現場目線でDXコンサルタントが解説していく。
■筆者プロフィール
笠井 大輔
2009年、徐々に定着し始めていたアクセス解析ツールの導入エンジニアとして、この業界のキャリアをスタートさせる。エンジニアに軸足を置きながらも、アナリストとして、分析業務や講習会講師などに幅広く対応。 2013年メディックスに入社してからは、元来のアクセス解析エンジニアという領域だけではなく、BIツールでの分析基盤の構築や経営層とのビジネスKPIの策定など、お客様のデータに関わる取り組みに幅広く携わっている。直近では、メディックスにおけるマーケティングDXを牽引する立場として活躍。
目次
虚像のDX –DXらしさに付き合わないために–
日本においてDXという言葉が一般的になってから、既に4年近くの時間が経過している。この4年の間、各企業、業界においてDXは推進されてきた。日本企業のDXの現状については各種調査が行われており、調査内容や調査対象により結果は変わるものの、大きな傾向としては、
- 中小企業よりも大企業の方が推進割合は高い
- その大企業においてもDXが推進できている、成功したと答えた企業の割合はまだ低い
となっている。
出典:「日本企業の経営課題2021」一般社団法人 日本能率協会
では、なぜ4年という時間が経過してなお、DXの推進ができていないのか。各種調査では人材の不足、投資の不足などの問題が既に明らかになっているが、私はDXに対する過大評価と過小評価が入り混じった、誤った認識が企業の推進を阻害していると考えている。本記事では、DXを語る上で頻出する「デジタル化はDXか否か」という、”不毛な”議論からこの問題を考えてみたい。
そもそもDXとは
DXの定義、解釈は様々されていたが、日本においては 経済産業省が2018年に定義した下記の文が基本となっている。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドラインVer. 1.0(2018,経済産業省)
目的は「優位性の確立」であり、「ユーザのニーズを基にプロダクトや自社を変化させる」必要がある。そのために「データとデジタル技術を活用する」という筋立てになっている。
この定義は非常にシンプルであり、また筋立てとしてもわかりやすい。しかし、「変革」という二文字は企業を混乱させた。文字どおり革命的な変化こそがDXであるとされ、各種メディアでは壮大なDX事例が取り上げられた。それらはやがて、「DXとはこのレベルのことを言うのだ」という基準を作り出し、その流れの中で発生したのが「デジタル化はDXにあらず」という意見だ。
デジタル化は、DXではない
この言葉は正しくない。
この意見が本来伝えたかったことは、「ペーパーレスや脱はんこだけではDXとは呼べない、本来のDXとは、もっと企業やビジネスを革命的に変化させることだ」という内容である。要は「デジタル化“だけでは”DXではない」、必要条件/十分条件の話であったはずだが、昨今よくある話として、センセーショナルな単語だけが切り取られ広まっていった印象を受ける。
DXは、デジタル化を除外していない。デジタル化、デジタライゼーションはDXに内包されるものであり、DXの一部である。デジタル化だけで大手を振ってDXを叫ぶことはできないが、少なくとも後ろ指をさされる筋合いはない。むしろ現実的には、「とりあえず簡単にできることをする」というスタンスは、とても重要になる。
足元のDX
DXの推進は「今後の環境はどのように変化するのか」、「ユーザーのニーズはどのように変化するのか」を考え、「それに対し自社はどのように在るべきなのか」を考える。そしてそれらを自社内で合意する。想像/予測と合意形成からスタートするが、基本的にこのステップがスムーズに終わることはない。DXがトップダウンでないと進まないと言われる由縁だが、トップダウンで進めたとて、現場への浸透で時間はかかる。要するにDX、時間がかかる。一朝一夕では終わらない。
一方で、環境の変化、ユーザーニーズの変化は企業の動きを待つことなく、現在進行系で変化している。この現在進行系の変化に対し、今、対応する必要がある。可能な限り早く、そのため可能な限り速やかに取れる手段で対応する。これを我々は「足元のDX」と呼んでいる。
このフェーズにおいて、手段は世間一般のDX事例のように壮大ではなく、一部門で今、活用できるツールを活用する、というレベルに留まる。革命ではなく対応であり、DXではなくデジタル活用。しかし、それで問題ない。
要は中長期的なビジョンに基づく変革=本質的なDXと、短期的な「今」に対応する変化=足元のDXの双方が存在してこそDXが成立する。マラソンに例えれば42.195を走る前に、靴紐は結んでおくべきだし、スタート地点が泥濘んでいるのであれば整備するべきだ。
ではこの足元のDX、どのように進めるべきか。DXにおいて手段は「データ」か「テクノロジー」となる。
次回はデジタルマーケティングに領域を絞り、このデータとテクノロジーの優先順位、その活用方法について解説する。