今、世界中でバズワードとなっている「メタバース」。
元Facebookの「Meta」をはじめ、世界中の有名企業が続々とメタバースに参入しており、マーケターの間でもメタバースへの注目度が高まっています。
この記事では、
- メタバースとは
- メタバースに大手企業が参入する理由
- メタバースの企業事例
- メタバースがマーケティングに及ぼす影響
について分かりやすく解説します。
「まずはメタバースの基本的な内容を押さえておきたい」「メタバースの企業事例を知り、自社にどう取り入れていくか考えたい」という方は、ぜひこの記事を最後までご覧ください。
目次
メタバースとは
メタバースとは「オンライン上に構築された『仮想空間』」のことです。
人々は「アバター」を介してメタバース内を自在に移動し、ゲームやショッピングに興じたり、オンライン会議をしたりして思い思いに過ごすことができます。
VRを用いることでより没入感の高い体験が可能となりますが、VRを必要としないメタバースも数多く存在します。
メタバースは「Meta(超越)」と「Universe(世界)」からなる造語で、その初出は1992年に発表されたSF小説「スノウ・クラッシュ」と言われています。
現在では、オンライン上に構築された仮想空間そのものや、それを活用できるサービス全般を「メタバース」と呼称しています。
「仮想空間」と聞くといまいちピンとこないかもしれませんが、実は、メタバースはすでに私たちのごく身近なところで展開されています。以下で分かりやすい例を紹介します。
ゲーム『あつまれ どうぶつの森』 <2020年に任天堂が発売したゲームソフト。 プレイヤーはアバターとなって無人島で過ごし、理想の島作りや島民との交流などを楽しむことができる。オンラインプレイを活用すれば、最大8人のプレイヤーでさまざまなコミュニケーションを取ることも可能。 ANNA SUIやVALENTINOといった世界的ファッションブランドが「マイデザイン(ゲーム内の着せ替えシステム)」を提供したことでも話題となった。 |
映画『サマーウォーズ』 2009年に公開されたアニメ映画。 映画内には「OZ(オズ)」というインターネット上の仮想都市が登場し、世界中の人々がアバターとなってOZでゲームや交流を楽しむ姿が描かれていた。 ありとあらゆるサービスがOZに集約された本映画は、「多くの人がメタバース上で過ごす近未来」を舞台にした作品であるといえる。 |
これまではゲームや交流の面で多く活用されてきたメタバースですが、近年では新たな商圏としても期待されており、その市場規模は年々拡大傾向にあります。
メタバースの市場規模
矢野経済研究所の調査によると、2021年度の日本国内メタバース市場規模は744億円、2026年度には1兆円を超えると予想されています。
いっぽう、世界全体でのメタバースの市場規模についてはさまざまな意見があります。
2024年までに8,000億ドル規模に到達するという意見や、2025年時点で4,000億ドルという意見。
2030年頃の市場規模予測はさらに意見が分かれ、10兆ドル規模・1~2兆ドル規模・1兆ドル未満と、市場規模の予測値(期待値)に大きな開きが生じています。
この乖離には、前提としている「メタバース」の認識の違いが関係しています。
仮想空間の利用全般をメタバースと捉えるか、VRをはじめとするxRデバイス利用を前提条件とするかなどによって、市場規模の予測値が大きく乖離しているのです。
しかし、どの調査においても「メタバースは今後も大きく発展する」という予測は共通しています。
今はまだ、世間においては「バズワードのひとつ」程度の認識ですが、メタバース内で個人が収益を上げやすくなれば利用者がさらに増加し、メタバースは加速度的に発展していくことになるでしょう。
メタバースの肝となるVRの普及率
前述したとおり、メタバースをより深く味わうためにはVRの利用が欠かせません。
特に、メタバース内でゲームやショッピング、ライブなどを楽しむ際には、VRのあるなしが没入感を大きく左右します。
そんなVRの普及率はどうなっているのでしょうか。
▼世界のAR/VR市場規模等の推移及び予測(出典:Omdia)
出典:総務省|令和3年版 情報通信白書|レイヤー別にみる市場動向
総務省が発表している「令和3年版 情報通信白書」によると、世界のAR/VRソフトウェア・サービス売上高は年々増加しており、今後も増加が見込まれるとのことです。
AR/VRハードウェアについては、多数のベンダーの参入~淘汰を経て出荷台数が減少していますが、今後は増加に転じることが予測されています。
しかし、国内におけるVR普及率はまだまだ低水準に留まっています。
- 「VR」の認知率は全体で90%
- 「知っているし、使っている」という現在利用率は全体でわずか5%
- 「知っているし、以前使っていたが、いまは使っていない」を含めた利用経験率も全体で16%に留まる
と、「VRの認知率は高まっているものの、実際に利用している/いた人はごくわずか」であることが明らかになりました。
『MarkeZine』75号に掲載された調査結果では、特に女性のVR保有率が顕著に低いことも分かっています。
VRの利用が日常的になり、誰もがVRを利用してメタバースを楽しむようになれば、メタバースがこれまでのオンラインコミュニティとは一線を画していることが明らかになるはずです。
国内においてメタバースがライフスタイルとして根付くためには、今後どのようにVRが普及していくかが大きなポイントとなるでしょう。
メタバースに大手企業が続々参入!その理由とマーケティング上のメリット
2021年10月にFacebookが社名を「Meta(メタ)」に変更し、メタバースに本格参入する姿勢を明らかにしたことは記憶に新しいですが、他にもさまざまな大手企業がメタバースの活用を始めています。
なぜ、大手企業がこぞってメタバースに参入するのでしょうか。
その理由は主に以下の5つです。
- 物理的な制約を受けることなく展開できる
- より自由度の高い見せ方ができる
- 最新技術を取り入れることによるブランディング効果
- 新たなセールスの場としての活用
- 高い利益率が期待できる
物理的な制約を受けることなく展開できる
総務省が発表している「令和3年版 情報通信白書」にあるとおり、新型コロナウイルス感染症の拡大を受け、インターネットショッピングを利用する世帯の割合が2020年3月から急激に増加しています。
実店舗にとってこうした動きは大きな痛手となりますが、インターネット上で展開されるメタバースであれば、外出自粛などの物理的な制約を受けることがありません。
加えて、メタバース上では実店舗のように陳列された商品全体を眺めたり、アバターを通じてリアルタイムに接客を受けたりもできますので、実店舗さながらの購買体験を楽しむことが可能です。
株式会社ネオマーケティングの調査では、「実店舗で購入する理由」として「陳列棚にある商品全体を見たいから」「その商品をその場で見て決めたいから」と回答した人の割合は、とりわけ衣服・ファッション小物や美容・化粧品ジャンルで高くなっています。
メタバースを活用すればこうしたニーズにも柔軟に応えることができるため、アパレルやコスメ業界はとりわけメタバースとの親和性が高いと見られています。
より自由度の高い見せ方ができる
仮想空間であるメタバースにおいては、空間や人数、距離といった物理的な制約に縛られることがありません。
海の中でライブをしたり、広大な空間に商品をずらりと並べたり、有名モデルやインフルエンサーのアバターに直接接客をしてもらうことも可能です。
このように、メタバース上ではより自由度の高い見せ方ができるため、「ブランドの新たな一面を発表する場」としても期待されています。
最新技術を取り入れることによるブランディング効果
バズワードのひとつであり、世界的にも注目度の高いメタバース。
そんなメタバースを取り入れたプロモーションは、ネットニュースやSNSなどで話題となり、多くの人の目に触れることとなります。
創造性に富んだプロモーションは、新たなオーディエンスへのリーチやブランドのファン育成にもつながることでしょう。
新たなセールスの場としての活用
メタバースは新たなセールスの場としても期待されています。
距離などの制約にとらわれないメタバース上の店舗であれば、実店舗がない地域の顧客の来店を促すことができます。
翻訳機能などを搭載すれば、海外の顧客を呼び込むこともできるでしょう。
仮想空間だからこそ可能なアプローチも着々と進められています。
大和ハウス工業が提供している「メタバース住宅展示場」では、子供やペット視点で内覧ができたり、インテリアや壁紙のパターンを瞬時に切り替えたりと、現実世界では再現が難しい技術を積極的に取り入れ、新たな顧客の呼び込みをはかっています。
このようにメタバースは、これまではリーチできなかった層への接触や、仮想空間ならではの見せ方などによって、新しい顧客獲得の場としても活用されているのです。
高い利益率が期待できる
もちろん、メタバース上でプロモーションを展開するためには、開発のために多大な時間や労力を要します。
空間演出にこだわればこだわるほど、開発費用も嵩むことでしょう。
しかし、同規模のプロモーションを現実世界で実現しようとした時に比べると、その費用や労力は圧倒的に少なく済みます。
広大な土地を借りたり、さまざまなアイテムを搬入搬出したりする手間も必要ありません。
開発のための費用や労力を少なく済ませられる一方で、人々が参加するためのハードルは大きく下がります。
物理的な制約がないため、国内のみならず、海外からの集客も見込むことが可能です。
収容人数の制約もないため、より多くの人にプロモーションを体験してもらえることでしょう。
集客の面でもメリットがあります。
前述したとおり、最新技術であるメタバースを利用したプロモーションは、ネットニュースやSNSを通じて自発的に拡散されていきます。
そのため、膨大な広告費を投じてプロモーションの告知をしなくとも多くの人を呼び込むことができます。
こうした理由から、メタバースのプロモーションでは高い収益率が期待できるのです。
メタバースを活用した企業マーケティング事例
それでは、実際に企業はどのようにしてメタバースをマーケティングに活用しているのでしょうか。
この段落では、直近で話題となったふたつの企業事例を紹介します。実際の事例から、メタバースならではの取り組みを見てみましょう。
H&M
出典:Twitter
スウェーデン発祥の世界的ファッションブランド・H&Mは、アパレルショップでは初となるメタバース上のバーチャルストアを出店。
音楽に特化したメタバース「CEEK City」内に出店されたストアでは、現実世界と同じように店内を歩き回り、仮想通貨のひとつ「CEEK通貨」で洋服(メタバースでのみ着用可能)を購入することができます。
店内にはH&Mの洋服を着用したマネキンが並び、セール情報が書かれた看板が立てられるなどしており、さながら実店舗のようですが、開放感のある空間や巨大なネオン看板、高い天井から吊るされた長い垂れ幕といった見せ方はバーチャルストアならでは。
H&Mでは、発光するニットや流動する液体が組み込まれたベストなど、現実世界では再現できない素材で作られたファッションアイテムなどもメタバースで発表しており、メタバースを新たなセールスの場として活用していく意気込みが見られます。
CeekのTwitter上では、H&Mのバーチャルストアのコンセプトムービーが公開されています。
メタバースだからこそ実現できる店舗のあり方を、ぜひその目でご覧ください。
Shopping in the #metaverse with $CEEK
Concept VR store presented to @hm by #CEEK Creating mainstream use cases for $CEEK + scaling #Virtualreality beyond games. #VRAPP #CEEKVR #NFT #VR #CEEKVenues
👉🏽 More at https://t.co/oAvCTgp2Bk pic.twitter.com/OI4BFkyUAw— Ceek (@CEEK) December 7, 2021
三越伊勢丹
コロナ禍で苦境が続いている百貨店業界でも、メタバースの導入が進められています。
老舗百貨店・伊勢丹は、百貨店業界では初となるバーチャルストアを出店。
ユーザはスマートフォンアプリを使って「仮想新宿」にアクセスし、「仮想伊勢丹新宿店」で買い物を楽しむことができます。
ストア内には実店舗にも並ぶさまざまなアイテムが陳列されており、アバター姿で現れる実在のスタイリストから接客を受けることも可能です。
アイテムごとの世界観を細部まであますことなく表現した、仮想空間ならではのこだわり空間は必見ですよ。
アプリにはフレンド機能が搭載されており、現実世界と同じように、友人とチャットで会話しながら散策することも可能。
遠方の友人といつでも気軽にショッピングに行けるというのは、メタバースでしか実現できない魅力のひとつと言えるでしょう。
今回ご紹介した事例の他にも、さまざまなブランドが続々とメタバースに参入しています。
アパレルブランドはもちろん、コスメブランドでも、メタバース上のバーチャルストアや体験エリアなどの新規出店が続いており、これらの業界におけるメタバースのさらなる活躍が期待されます。
メタバースによってマーケティングはどう変わるのか
メタバースでは、リアルマーケティングとWebマーケティングそれぞれの長所を取り込んだマーケティング活動が可能となります。
現実世界のようにユーザ自身に自由に動いてもらいながら、その行動を計測したり、ブランドのSNSやオンラインショップにつなげることもできるでしょう。
現在のWebマーケティングのように、ユーザの行動を妨げかねないポップアップや動画広告などではなく、ユーザの行動に応じて最適な広告が表示されたり、メタバース内のサイネージに動画広告を流し、気になったユーザが立ち止まってそれを眺めるといったような、今までにない高度な広告体験も可能になるはずです。
また、空間や人数、距離といった物理的な制約を受けないため、世界中を対象としたマーケティング展開も検討していく必要があります。
見せ方の自由度も極めて高いため、VR空間だからこそできる3Dビジュアルによってブランドの世界観を提示したり、ブランドコンセプトを体現する空間を演出したりして、新たなファンの獲得を目指すことも重要となります。
とはいえ、今すぐにメタバースが全マーケターにとって重要になるとは限りません。
前述したとおり、メタバースの肝となるVRの国内普及率はまだまだ低く、人々が「メタバースならでは」の体験を日常的に得られるようになるにはまだ時間がかかるためです。
業界初の事例となったり、ネットニュースやSNSで大きな注目を集めたりと、今メタバースに参入する意義ももちろんあります。
しかし、現段階での参入が本当に事業のためになるかどうかは慎重な見極めが必要となります。
現時点では、メタバースの企業事例やVRの普及率にアンテナを貼りつつ、最適な機会を虎視眈々と待つことが賢明と言えるでしょう。
まとめ
メタバースがどのようなものか、どんな優位性があるかがお分かりいただけたでしょうか。
現実世界では実現が難しい見せ方やアプローチも、メタバース上では可能となります。
とはいえ、VRの国内普及率が低い現時点では、メタバースへの本格参入には一定のリスクも伴います。
今は「こうすればもっとブランドの魅力を表現できるのに」「こんなふうに新しいユーザ体験を提供したい」といった種を温める期間と考え、メタバースがもたらす別次元のマーケティング戦略に備えるようにしましょう。