リスティング広告やディスプレイ広告などのWeb広告の改善を進めていくと、ほぼ必ずと言っていいほど頭打ちに直面します。リスティング広告黎明期のように出稿者が少ない時期ならいざ知らず、多くの企業が参入している昨今は、効果的なキーワードや配信面の奪い合いによってCPC(クリック単価)が上昇しやすくなっています。その結果、前年対比での効果維持すら難しくなるといったケースもあり、これまでアプローチしきれていなかった見込み客の育成や発掘のニーズが一層強まってきています。
この記事では、見込み客の獲得を考えていこうとする方が陥りやすいポイントや、逆にうまくいったケースなど、施策を成功させるための秘訣を紹介します。ただし、秘訣といっても、「これをやっておけば大丈夫」という「簡単に」「すぐに」できる魔法の薬はありません。記事内でお伝えする内容を、ご自身の担当しているサービスに置き換えて考えることこそが一番大切なことです。
目次
そもそもWeb上にいる見込み客ってどうやって見つければいいの?
Web上の見込み客を大きく分けると次の2種類が挙げられます。
①すでに自社サービスサイトに来たことがあるが、十分にアプローチできていないユーザ
②サービスサイトを訪れたことがないユーザ
この2つのうち、獲得しやすいのは①のユーザです。
当たり前のようですが、サイトを訪問しながらも、コンバージョンに至らなかったユーザは見込み客であるということです。もちろん誤クリックで訪問した場合などもありますが、多くはサービスに興味をもってサイト訪問したものの、何かが足りなかったために顧客にならなかったユーザです。彼らは、見込み客の中でもコンバージョンまでの距離が近い「確度が高い対象」ですので、積極的にアプローチしていくべきです。
リターゲティング広告など、再訪を促すアプローチ方法を導入することも多いと思いますが、Web接客などでサイト来訪時に適切なアプローチをしようとするサイトも多くなっています。
また、②については、さらに2つのケースに分けることができます。
②-A:提供サービスの良さを知らない
②-B:同種サービス自体を知らない
②-Aの典型例は、競合他社サービスの利用ユーザです。
同種サービスを利用しているユーザは、サービスメリット自体は理解しており、使用中のサービスのほうが良いと判断して利用者になっています。ただし、それらのユーザ全員が自社サービスの情報を知っているとは限らないため、いちど検討俎上にあげることで見込み客になる可能性があります。
自社サービスに自信はあるがメリットを伝えきれていないだけであれば、この層にアプローチすることで見込み客獲得に高い効果を見込めます。一方で、サービスの差別化要素がない場合は、難しいかもしれません。確度の高い対象がいても、利用サービスを変更するメリットが見込めなければユーザは動かないことを意識して、ターゲットとするべきかの判断をしていきましょう。
②-Bの場合、「サービス自体を知られていない」という条件だけだと対象が極端に広がってしまい、その中からブルーオーシャンを見つけ出さなければならないという難しさがあります。非常に難易度の高い領域ですが、成功した場合にはサービス拡大の推進力にもなりえる重要なターゲットです。Web上で探し出す場合、次のような方法を取るケースがよくあります。
1つは、コンテンツ内容や訴求方法によって、ユーザ自身も気づいていないニーズを引き出す方法。2つめは、親和性の高いコミュニティを見つけ出すことです。前者を積極的に進めている企業は、コンテンツマーケティングなどで顕在化する前のニーズを引き出そうとしているケースが散見されます。後者については、SNSの発達によって可能性が広がっているものの、拡大スピードが早すぎたことでコミュニティに無関係の人には見つけづらい構造になっており、見込み客発掘の難易度が高くなっています。
このように、見込み客と一口にいっても様々な角度から考える必要があります。
自社にとって、どの見込み客を優先的に発見し顧客化していくべきか?どのようなアプローチ手段があるのか?狙った層に対してもっとも効果的な訴求は何か?今回の記事では主に②の層についてお伝えしていきますが、検証を重ねていくことで、「自社にとっての」見込み客を見つけていくことが重要です。
見込み客の獲得でよくある失敗例とは?
目標値の設定の誤り
見込み客の獲得を進めていく上で、もっとも失敗しやすいのが目標設定です。
獲得単価(CPA)などを指標に運用しているケースが多くありますが、過去の実績値をそのまま見込み客獲得の目標値にしてしまうことはひじょうに危険です。見込み客を狙う場合、獲得できる可能性の低い層を狙っていくため、獲得単価は上昇しがちです。
前述の方法で目標値を設定した場合、目標値と実際値に乖離が出るのは当然であり、検証初期段階に獲得効率が見合わないという理由で都度施策を止めていては事業が前進しません。
自社のマーケターとして見込み客を発掘する場合には、施策の目的を正しく伝えて、社内稟議を通すこともミッションのひとつといえます。
① 検証予算を設定する
検証結果が有意な結果と判断できる程度の予算を見積もりましょう。特に高単価商材の場合、誤差かどうかの判断が難しいことも多いため注意が必要です。
② 初期は獲得効率ではなく、獲得数で判断する
獲得が見込める層でさえあれば、対象を精緻化していくことで効率化を進めていける可能性があります。当初から獲得効率を意識して絞り込んだ配信をするのではなく、まずは広めに配信し、そこから絞り込んでいくことが大切です。
③ 分析結果をもとに、改善策を立てた上で次の検証に進む
一度の検証で目的の数値に届くことはほとんどありません。一歩ずつ改善を進めていきましょう。
ユーザモチベーションの理解不足
次に気をつけておきたいのが、訴求内容です。
既存のユーザに最適化された訴求内容で広告配信を行った結果、獲得につながらないといった例がよくあります。典型的な例が、クーポンや割引訴求です。お得系訴求は、サービスの最終検討段階では非常に効果的であり、多くのサービスで用いられています。ですが、「安い」と言われて買う気になるのはなぜでしょうか。それは、ある程度購入する気持ちになっているからです。
一方で見込み客にリーチする場合、ユーザの購入意欲が高まっていないことは多々あります。いかに割引されたとしても、購入意欲の低い段階では購入後の押し効果が低くなるのは当然です。
では、どうすれば良いのでしょうか。
まずは、リーチしているユーザのモチベーションを理解することが重要です。
何かに困っているユーザであれば、サービス利用によって悩みの解消が期待できることで、積極的に検討を考えはじめるはずです。また、ユーザ本人は気づいていなかったとしても、サービス導入によって効率化が進むことを気づかせることができれば、購入意欲は高まります。このタイミングで、最適化されたアプローチができれば、見込み客の獲得につなげることも可能でしょう。
このように、対象としているユーザのモチベーションを理解し、適切に購入意欲を高めていくことが、新たな見込み客を生み出す鍵のひとつといえます。
直接成果のみで判断してしまう
先の段落の続きになりますが、見込み客のモチベーションを引き上げるためには、通常フローに加えてさらに購入意欲を高めるための1ステップが必要です。
これまでWeb広告で用いられることの多かったラストクリックコンバージョンのみを指標としている場合、ここに落とし穴があります。つまり、モチベーションを上げるフローの効果判断を誤り、全体最適化が進まないという結果になってしまうのです。
多くの場合、獲得には複数回のタッチポイントを必要とします。ラストクリックコンバージョンの計測では、最後のタッチポイントにのみ獲得の効果が紐づけられますが、その前のアプローチを無視するわけにはいきません。Web上で計測する場合、アシストコンバージョンを用いたアトリビューション分析という手法があります。最初はややとっつきにくい概念ですが、見込み客獲得を目指す上では、必須の考え方です。
見込み客獲得の成功事例
筆者が過去取り組んだ施策の中で、成功要因をいくつかご紹介します。
本気でペルソナ設計
1つ目は、対象ユーザのペルソナ設計を徹底的に行うというものです。事業者側は、自社サービスへの固定観念が強く、新しい視点を持つことに苦労することが多々あります。一方で、代理店側は特定サービスに対して深く理解する機会は少ないですが、多くの案件に関わることで俯瞰的な視点を持ちます。成功したケースでは、異なる視点を持つ両者がフラットな形で議論できる環境の構築ができていました。
どういった年代の方で、どのようなライフスタイルを送っていて、普段どんなことに興味をもっているのか。既存顧客を中心にユーザの姿を浮き彫りにしていき、そこからユーザ像を広げていきます。その趣味を持っている人は、ほかにどんな趣味を持っているのか?どういう人と繋がっているのか?ライフスタイルの中で何を叶えるためにサービスを使っているのか?ユーザを深掘りしていく中で見えてきたサービス利用動機をもとに共通項を探し、アプローチしたい層に適した訴求方法を決めていくことです。
当たり前のことのようですが、ユーザのペルソナを地道に発掘するフローがおろそかにされていることは多々ありますので、意識してみましょう。
含有比率の高いセグメントグループを見つける
2つ目は、一見無関係そうに見えても、確度の高い見込み客を多く含むセグメントグループを発見することです。商材によって相性が分かれる方法で、ユーザの動きが特徴化されやすい場合に成功確率が高いです。
例えば、都市郊外店舗型モデルのビジネスの場合、店舗周辺地域でWeb広告を配信しても、平日の効果が低いために獲得単価が見合わないことがあります。サービス利用を決めるのが、金曜夕方以降から土曜午前中に集中するのであれば、配信時間帯で絞り込めます。ユーザの動機形成タイミングが画一化されている場合は、広いセグメントでも十分に獲得できるケースがあります。
また、ニッチマーケットの場合、リスティング広告ではボリュームが少なく、ディスプレイ広告では対象が広がり過ぎて獲得単価が高くなるといった問題がよくあります。一見アプローチが難しそうにみえますが、業界ベンチマークとなる人を中心にしたコミュニティを築いているケースが多く、SNS広告などでコミュニティにアプローチすることが叶えば、高い効果を得やすくなります。
商材によって適切なアプローチ方法は異なりますが、対象を多く含むセグメントグループを見つけ出すことは、見込み客獲得のための有効な手法といえます。
対象にスポットを当てたコンテンツ設計
最後にお伝えしたいのは、受け皿となるコンテンツの重要性です。検証で予算が取りづらいといった事情があるにせよ、やはり専用コンテンツを作成することをおすすめします。前半にも述べたように、既存ユーザと異なる対象にアプローチするからこそ、個別最適化されたコンテンツを提供する必要があります。
家族向けのサービスでも、旦那さんと奥さんで、伝えるポイントを明確に分けることによってうまくいったケースなどもあります。
また、付随しての補足ですが、検証に工数をしっかりかけることで関係者の本気度があがるという効果もあります。少し精神論のような話ではありますが、時間のない中でPDCAを回すことの多いWeb広告においては、あながち無視できない要素です。
まとめ
この記事では、見込み客の獲得という観点でいくつかのポイントをお伝えしました。Web広告はデジタルであるからこそ、数字のみで語られ、結果的にユーザが置き去りにされてしまうケースがあります。経験則で把握している顕在層に比べ、見込み客の獲得を狙っていく場合は、ユーザを無視して成功することはありません。
紹介した内容をもとに、自社サービスに置き換えて具体化し、訴求することで新しい見込み客獲得の一助にしてみてください。
【執筆者情報】
株式会社エフ・コード 高須賀 政洋
Webコンサルティング事業を10年以上に渡って提供する株式会社エフ・コードにて、上場企業を中心に数多くのコンサルティング案件を手掛ける。現在はマネージャーとしてチームを牽引。SaaS事業を含めた領域横断的なデジタルマーケティングに携わり、導入企業に価値を提供し続けている。
*株式会社エフ・コードで提供しているweb接客ツール「f-tra CTA」も同様の機能がございます。
詳細はこちら。