マーケティングDXにおける本質的な課題と、何から始めるべきかを、現場目線でDXコンサルタントが解説していく連載企画の中編になります。
前回の記事はこちら▼
【連載企画】マーケティングDXを成功に導く「足元のDX」とは ~着実に成果を出すための1stステップ~
目次
DXを成す2つの手段 ―「テクノロジー」に頼る前に「データ」からわかること―
中長期的な変革と対をなす「足元のDX」。今に対応するために、今できることをする、というのが大まかな内容となるが、では一体何からスタートすればよいのか。
DXの重要な2つの手段である「データ」と「テクノロジー」をどのように考え、どう向き合っていけばよいのか。
今回は、デジタルマーケティングにフォーカスしてこの問題を解説する。
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【連載企画】マーケティングDXを成功に導く「足元のDX」とは ~着実に成果を出すための1stステップ~
目的なきテクノロジーの活用
前提として他の領域と比較し、デジタルマーケティングにおいては、データとテクノロジーを活用することはごく一般的な話であり、全く活用していないという企業の方が少ない。これだけ聞けば、デジタルマーケティングにおける足元のDXは十分に進んでいるように見え、中長期的なデジタル環境の変化にどのように対応していくのかにフォーカスしてよいように見える。
一方で、デジタルマーケティングにおいてはテクノロジー、ツールの活用障壁が低いからこそ、「とりあえずツールを使ってみる」という曖昧な意思決定が行われることが多々ある。活用目的が曖昧なままツールが導入され、自社内で広く活用されることはなく、いつしか「あれ、なんでこのツール使っているんだっけ」という状態になり、解約される。この動きの中ではツールの振り返りも行われない。活用目的が曖昧な以上、振り返りをすることができない。このようなケースは足元のDXとは言えないし、その後への学びはない。
再掲するが、DXの定義は下記である。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。
デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドラインVer. 1.0(2018,経済産業省)
重要なのは、テクノロジーの活用は「ユーザニーズに対応する」ためである。この前提がないテクノロジーの活用は、意味を成さない。
足元のDXの第一歩は分析=テクノロジーの活用目的の設定
デジタルマーケティングではテクノロジーの活用障壁が低いからこそ、その活用目的は注意して設定されなければならない。ユーザニーズは何か、そこに対する自社の課題は何か、それらを特定、または精度の高い仮説を構築した上で解決手段としてテクノロジーを活用する。このニーズの把握、課題の可視化において、データを活用する。足元のDXはこのデータ活用=分析からスタートする。
デジタルマーケティングにおいてはデータ活用の重要度は高い。各種販売チャネルでの購買データ、自社サイト上での行動データ、獲得チャネルの接触データ、これらを基にしたユーザの販売チャネル間の行き来、購買/行動の間隔、場合により行動前の認知データも対象になる。もちろんこれがユーザのすべてではない。デジタルマーケティングではユーザのあらゆる情報、データが手に入るという風潮もあるが、ユーザのインサイトは直接データに反映されるわけではないし、自社の領域外の行動データの入手難易度は高い。それでもなお、マスマーケティング、オフラインの行動に対しデータとして取得可能な範囲は広く、このデータを分析しユーザニーズを理解することは大きな効果を発揮する。
では、この分析をどのように進めていけばよいのか。分析において最初からデータを並べてユーザの姿を浮かび上がらせることは難しい。多くの場合は「自社の想定」を最初に整理し、その想定に対する「実際のデータ」をプロットさせることでギャップを可視化し、ユーザの姿に近づいていくというアプローチが基本となる。要は、最初に行うことはデータを見ることではなく、今の考えを整理するということだ。
自社の想定を整理
この整理で主に使うのは2つ、経営/事業運営視点のKPIツリーと、マーケティング視点のカスタマージャーニーだ。
KPIツリーではゴールとなるKGIに対し、その構成要素となるKPIを段階的に整理する。ゴールがどのような要素から成り立っているのかを理解し、最終的にはどのポイントに改善可能性があるのかを明らかにする。
一方で、カスタマージャーニーはゴールに向けてユーザがどのように動いていくのか、ゴールまでのステップを整理する。ゴールに向けてユーザにどのようなハードルを超えてもらう必要があるのかを理解し、最終的にどのポイントに改善の可能性があるのかを明らかにする。
この2つ、デジタルマーケティングにおいては相当に似たアウトプットとなる。
カスタマージャーニーにはユーザのインサイトが入るが、KPIツリーはあくまで数値の構成のみである、KPIツリーはスクリーンショットのようにその時点の状態を可視化するが、カスタマージャーニーではユーザの時系列の動きを可視化する、などの違いはあるものの、KPIの項目とカスタマージャーニーのステップの項目は、ほぼ同じものになるはずだ。
なぜなら、ユーザが行動し、購買行動を起こすことで収益が発生するため、その行動はカスタマージャーニーに組み込まれるし、その行動がKPIとなる。そのためどちらか一方で良いのではという意見があるが、それぞれは事業運営目的=管理/経営レイヤー視点とマーケティング目的=マーケティング現場視点という目的の違いがあるため、この段階でどちらも整理しておくことがベターだ。
現実のプロット=BIの活用
ここまで整理できたのであれば、実際のデータから各ステップの数値を算出し、プロットを行う。
実際の数値を見ながら想定と異なるステップを特定し、そのギャップの背景を推察して適切な手段=テクノロジーの活用を行う、という流れになる。
このプロット、実際のデータからの算出はExcelを使って手動で計算するのでもよい。ただ現状のデータを考えるとExcelで扱うには巨大であることが大半だ。いくら普段使用するPCのスペックが一世代前より上がったとしても、Excelのバージョンが最新であったとしても、100万行をVlookupしたら固まる。また、この可視化は今後も定点で観測していく対象になること、そこからの施策についてはデータを用いた社内の説得というフェーズが待ち受けていることを考えると、ダッシュボードのように自動的に数値が更新され、ビジュアライズされる状態が望ましく、この段階でBIツールの導入を検討してもよい。
もちろん、このBIツールの導入においても、足元のDXの原則である「可能な限り早く実現すること」が求められる。
次回は、これを可能にするセルフ型BIの概要、導入の具体的なステップについて解説する。