新たな市場への参入を計画する、あるいはマーケティング戦略のテコ入れを行う際などに役立つ「市場調査」。マーケティングの根幹を支えるといっても過言ではない市場調査ですが、どのようにして必要なデータを収集すればいいのかご存知でしょうか。
アンケートやインタビューを行う、市場調査代行業者に依賴するという手段もありますが、誰でもすぐに取り入れやすいのが「政府や民間企業が集計・公開しているデータを利用する」というものです。
この記事では、市場調査に役立つデータを公開している無料・有料のサイトを、たっぷり19サイト紹介しています。
より最短経路で目的のデータに辿り着けるよう、
- データの信頼性が極めて高い「政府統計」のサイト
- バラエティ豊かなデータが集まる「リサーチ会社など」のサイト
- 専門性が高いデータが揃った「業界特化」のサイト
の、3カテゴリに分類してサイトを紹介します。また、記事後半では、
- 市場調査とは
- 市場調査の主な調査方法
- 市場調査を行う際に気を付けるべきポイント
の3つについても紹介します。
先に市場調査の基礎的な部分について知りたい、という方はこちらからご覧ください。
なお、データの引用や参照などのルールはサイトごとに異なります。市場調査のためにデータを引用・参照する際は、各サイトのルールをご確認ください。
目次
市場調査に役立つデータ|政府統計
まずは、政府が運営している市場調査向けデータサイトから見ていきましょう。
新聞やニュースの情報源とされることも多く、いずれも信頼性の高いデータが集められたサイトばかりです。
データの信頼性を重視したい場合、こちらのサイトの利用がおすすめです。
総務省統計局|e-Stat 政府統計の総合窓口
最初に紹介するのは、総務省統計局が運営している「e-Stat 政府統計の総合窓口」です。
各府省が公表した統計データを網羅している大変便利なポータルサイトで、市場調査にはもちろん、ニュースや新聞記事の情報元としても活用されています。
データの閲覧はもちろん無料。「人口・世帯」「住宅・土地・建設」といった17分野からの検索や、作成組織からの検索、指定キーワードの検索などさまざまなタイプの検索機能が搭載されており、目的のデータを容易に見つけ出すことができます。
総務省統計局|統計ダッシュボード
https://dashboard.e-stat.go.jp/
続いても総務省統計局が運営しているサイトですが、
- 国だけでなく、民間企業などが公表しているデータも掲載
- 主要な統計データはグラフなどに見やすく加工
- APIを利用して大量のビッグデータを定期的に取得することも可能
という点に特徴があります。
APIは登録不要で誰でも自由に利用できますので、定期的に市場調査のデータを取得したいときにも大変便利です。
経済産業省|統計
https://www.meti.go.jp/statistics/
経済産業省の統計ページでは、経済・産業関連の統計データを見ることができます。
約1,600の生産品目の生産・出荷量などを毎月集計している「経済産業省生産動態統計調査」をはじめ、市場調査に役立つデータが豊富に揃ったサイトです。
10年分の統計データをグラフ化できる無料ツール「グラレスタ」も公開されており、オンライン上で任意の統計グラフを作成することも可能です。
なお、統計データの最新情報はRSSやメールマガジン、Facebookページなどを通じて配信されていますので、うっかり見逃してしまうこともありません。
国立国会図書館|リサーチ・ナビ
https://rnavi.ndl.go.jp/rnavi/
日本国内で出版されたすべての出版物を保管し、国会議員の調査研究にも活用される日本唯一の法定納本図書館「国立国会図書館」。
そんな国立国会図書館の職員が「調べものに有用」と判断した各種情報源・資料群を網羅したのが「リサーチ・ナビ」です。
資料の多くは国立国会図書館をはじめとする各図書館に保管されており、インターネット上で閲覧することはできませんが、書籍や新聞といった各種資料の保管先図書館名や請求番号などを調べることができますので、目的の資料がどこにあるかをスムーズに把握することができます。
書籍などを元に、より本格的かつ信頼性の高い市場調査を行いたいときに役立つサイトです。
市場調査に役立つデータ|リサーチ会社など
続いて、民間企業による市場調査向けデータサイトを紹介します。
各企業とも自社の事業領域や特性を活かしたデータ収集を行っていますので、バラエティ豊かなサイトの中から市場調査に活かせるデータを見つけ出すことができます。
マクロミル|市場調査レポート
https://www.macromill.com/contact/ja/reports.php
さまざまなリサーチサービスを提供しているマクロミルでは、市場調査に役立つ多数のデータを無料提供しています。
データは「広告・メディア」「食品・飲料」などの業界・業種別にカテゴライズされていますので、お目当てのデータもすぐに探すことができるでしょう。
資料を見るには無料ダウンロードに進む必要がありますが、調査対象や調査時期などの概要を事前にチェックすることができますので、「ダウンロードしたはいいものの、データが古くて使えなかった…」ということもありません。
博報堂生活総合研究所|生活定点 1992-2020
https://seikatsusoken.jp/teiten/
博報堂が2年ごとに行っている定点調査データをまとめたサイトで、28年分・約1,400項目の生活者観測データを無料公開しています。※2021年5月時点
データは生活に関する21のカテゴリに分類され、データの要点をまとめたリリースやコラムなど、データ以外にも参考となる意見や分析が掲載されています。
このサイト特徴は、閲覧中のデータと似た動きをしているグラフを自動で抽出してくれることです。
たとえば、
- お酒を飲む」と回答した人と「会社の仕事を家に持ち帰ってやったことがある」と回答した人の割合グラフが類似している
- 「休みがたっぷりよりも、給料が高い方がいい」と回答した人と「貯金にお金をかけたい」と回答した人の割合グラフが類似している
などが分かりますので、閲覧中データの深堀りや理解につながる、思わぬデータと出会うことができるかもしれません。
ITmedia|調査のチカラ
ITmediaが運営する「調査のチカラ」は、インターネット上に公開されている無料アンケート・データを集約したサイトです。
民間企業の調査結果だけでなく、国の統計データまで広く網羅されています。
情報の種類は極めて多岐に渡りますが、さまざまな絞り込み条件が設けられていますので、まずは調べたいキーワードを打ち込んでみるといいでしょう。
さまざまな業界・分野のデータが網羅されているので、「こんなデータが見たい」となった際にはまず訪れてみることをおすすめします。
リクルート|調査・データ
https://www.recruit.co.jp/newsroom/data/
人材派遣業や不動産業、外食産業など、リクルートホールディングスが展開するさまざまな事業を通じて収集した消費者動向などをまとめたサイトです。
アルバイトやパートの平均時給調査や外食市場調査、宿泊旅行調査など、月や年ごとに定期的に調査している項目もあり、消費者動向のリアルな推移を知ることができます。
まずは、市場調査したい業界のカテゴリがあるかどうかをチェックしてみましょう。
クロス・マーケティング|無料調査レポート
https://www.cross-m.co.jp/company/
年間約10,000件以上のリサーチを行っているクロス・マーケティングでは、その一部を無料公開しています。
データ全体を閲覧するにはダウンロードが必要ですが、調査概要やサマリーなどはサイト上に公開されているため、事前にある程度の内容を把握することができます。
なお、ダウンロードには無料会員登録が必要ですが、無料会員登録をすると、
- 無料調査レポートのダウンロード
- 会員限定セミナーに無料参加
- 分析ツール「Cross Finder2」を無料利用
が、可能になります。市場調査のデータ取得だけでなく、市場調査の方法や、より詳細な分析を学びたい方におすすめです。
サイト上では市場調査に役立つ統計・分析手法を解説したコラムも掲載されており、手法から学びたい人に優しいサイトとなっています。
東京商工リサーチ|データを読む
https://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/
企業の信用調査や市場調査を行う東京商工リサーチでは、長年蓄積してきた企業情報・倒産情報などをもとに、日本経済の「現在」を理解するためのデータを無料公開しています。
企業情報を中心とした経済関連データをお探しの方におすすめのサイトです。
ニッセイ基礎研究所|研究領域 レポート
https://www.nli-research.co.jp/report/
経済や医療、経営・ビジネスや暮らしなど、幅広いジャンルの研究領域レポートを提供しているニッセイ基礎研究所。
各領域のレポートは専門知識を備えた研究員が作成しており、専門性の高いデータを得ることができます。
ニッセイ基礎研究所が公開しているレポートの最大の特徴は、レポート内容を研究員に直接問い合わせることができるということです。
サイト内には研究員の経歴や自己紹介、作成レポートに加え、直通の電話番号やメールフォームが公開されており、レポート内容の意図や詳細などを確認することができます。
【有料】矢野経済研究所|市場調査資料
市場調査や経営戦略コンサルティングなどを行う矢野経済研究所では、3,000セグメントに及ぶマーケットデータを有料販売しています。
数百ページ分に及ぶ充実したデータばかりですので、詳細な市場調査を行う際に役立つはずですよ。
企業名から資料を検索することもできますので、特定の競合の動向などを調査したい際にも大変便利です。
マーケットデータは10万円以上するものが多く、中には、「いきなりそんな費用を支払うのはちょっと…」と躊躇される方もいらっしゃることでしょう。
そのような方には、税別1,000円で購入できる「ショートレポート」がおすすめです。
マーケットデータの内容を数ページに要約したもので、マーケットデータの入門的な情報として活用できるでしょう。
【有料】富士キメラ総研|市場調査サービス
https://www.fcr.co.jp/service.html
市場調査に58年の実績を持つ富士キメラ総研。
電気製品やエレクトロニクス関連部品などの先端技術市場の調査に力を入れており、サイト上にはそれらの業界の市場調査レポート、ベンチマーク調査レポート、ユーザー調査レポートなどが多数掲載されています。
レポートはどれも有料ですが、業種・業態別市場規模の把握や新興メーカーの動向調査、市場展望の予測や、競合ベンダーの製品展開や今後の事業計画などが詳しくまとめられており、綿密な市場調査に役立てることができます。
市場調査に役立つデータ|業界特化
最後に紹介するのは、特定の業界に特化したデータサイトです。
活用幅に限りがある場合がありますが、より高い専門性を備えていたり、深堀りをした詳細なデータが期待できます。
【広告費】電通|日本の広告費
https://www.dentsu.co.jp/knowledge/ad_cost/
日本国内最大手の広告代理店である電通では、国内における1年間の広告費の統計データを公開しています。
1947年から推定を開始した歴史ある統計データで、マス四媒体やインターネット広告など、さまざまな広告費用の推移や規模感を把握することができます。広告の市場規模を把握するにはうってつけのサイトと言えるでしょう。
【市区町村データ】ホームメイト|市場調査データ(マーケティングリサーチ)
https://www.homemate.co.jp/research/
賃貸物件の情報サイトを運営するホームメイトでは、日本国内の市区町村ごとのデータを公開しています。データは「住みたい街」を見つけたいユーザー向けにまとめられたものですが、
- 総人口
- 人口密度
- 転入・転出率
- 核家族世帯の割合
- 共働き世帯の割合
などの人口状況に加え、自然環境や所得・物価、税金・福祉費などが詳細にまとめられており、市場調査に役立つデータが豊富に揃っています。
【飲食/物販/サービス業】J-Net21|市場調査データ
https://j-net21.smrj.go.jp/startup/research/index.html
中小企業経営者の課題解決サポートを目的としたJ-Net21では、飲食業・物販業・サービス業の市場調査データを公開しています。
各業界ごとに業種は細かく分けられており、たとえば飲食業であれば、
- アイスクリームショップ
- 居酒屋
- イタリア料理点
- インターネットカフェ
- うなぎ料理店
- お好み焼き店
など、さまざまな業種の市場調査データが公開されています。
市場調査データには、
- 現在の利用状況
- 1回あたりの利用金額
- 今後の利用意向
といった役立つデータがまとめられていますが、業種によっては調査時期が古いこともありますので注意が必要です。
市場調査とは
市場調査とは、「商品開発やマーケティング戦略の立案を目的として、定性的・定量的両方のデータから市場状況を把握すること」を指します。
たとえば、新しい炊飯器を開発しようとする場合、
- 国内世帯における炊飯器の所有率
- 炊飯器一台にかける平均単価
- 購入後の買い替えタイミング
- 購入する際に重視しているポイント
- 競合他社の数やマーケットシェア率、強みや弱み
といった情報が必要となりますが、これらを明らかにすることが「市場調査」で、その調査結果をもとに商品開発を進めていくこととなります。
また、調査結果はマーケティング戦略の立案や企画などにも利活用されます。
市場調査を行う際は、自社で行うケース(独自調査、統計データ調査など)と、市場調査の代行業者に外注するケースがあります。
外注すれば、手間なく詳細な市場調査結果を手に入れることができますが、高額な費用が発生したり、自社の目的やニーズに沿った「かゆいところに手が届く市場調査結果」が得られなかったりする可能性もあります。
まずは適したデータが公開されていないかどうかを調べてみて、その後、必要に応じて追加調査する・外注するなどの判断を下すことをおすすめします。
市場調査の主な手法
市場調査にはさまざまな手法がありますが、中でも代表的なものが以下の4つです。
- 定量調査
- 定性調査
- 覆面調査
- 統計データ調査
それぞれの手法について以下説明します。
定量調査
数値や量で表される「定量データ」を集計するものです。
消費者や見込み顧客を対象として行い、主に「What(なにを)」を明らかにします。
定量調査のアンケートには、「はい・いいえ」や「1~5のスケールのうち適したものにチェックする」といった「スコアリング方式」と呼ばれるタイプのものが利用されます。
回答者は質問項目に対して明快に回答することができ、回答者のニーズや購買行動などを定量データとして収集することができます。
定性調査
数値や量では表しきれない「定性データ」を集計するものです。
属性(年齢や性別など)が共通するグループを対象とした「グループインタビュー」や、マンツーマンでの「ユーザーインタビュー」などを行い、定量調査では把握しきれない「How(どのように)」や「Why(なぜ)」といった要素を収集します。
明快な数値・量で回答を得られる定量調査に対し、定性調査は、定量データの回答に至った経緯や原因などを深堀りする役割を担っています。
定性調査の分析にはリサーチャーの解釈力が求められますが、回答者が特定の行動・思考に至った経緯や原因を理解するためには欠かすことができない、重要な市場調査調査手法です。
▼定性調査ついてはこちらの記事で事例も交えて解説しております。
https://medix-inc.co.jp/webbu/qualitative-survey-6498
覆面調査
フランスのミシュランガイドに代表される市場調査手法で、第三者が消費者として実際に商品・サービスを利用し、その結果を依頼主に情報提供する形で調査が行われます。
飲食業をはじめとするサービス業で多く用いられる市場調査手法です。
統計データ調査
この記事で紹介しているような、政府や大学、民間企業などが公表している統計データをもとにして行う市場調査手法です。
自社で一からデータ集計する必要がなく、手間や費用を削減することができますが、適切なデータが必ずしも公開されているとは限らないというデメリットもあります。
適切なデータさえ見つかれば気軽に取り入れられる手法なので、自社で市場調査を行う多くの企業が、市場調査のメイン手法として採用しています。
市場調査を行う際に気をつけるべき4つのチェックポイント
この章では、市場調査のなかでも特に「統計データ調査」の際に気をつけたいポイントを4つご紹介します。
統計データ調査においては、「第三者が集計・公開しているデータ」を元にして市場調査を行います。
そのため、必ず事前に以下の4ポイントをチェックするようにしましょう。
- 調査機関の信頼性
- 調査の実施時期
- 調査対象の母数
- 調査対象の属性
これらのポイントをよくチェックしないまま調査・分析を進めてしまい、あとでデータそのものに不備があったと判明しては、せっかくかけた時間や労力が水の泡です。
そうならないために、ぜひこの章をお役立てください。
調査機関の信頼性
まず第一に、調査機関の信頼性を確認しましょう。
集計・公開している調査機関によって、データの信頼性は大きく左右されます。可能であれば、国や政府が集計・公開している統計データを用いることをおすすめします。
当記事で最初にご紹介した、総務省統計局による「e-Stat 政府統計の総合窓口」は、新聞やニュースの情報源としても活用されているサイトです。
調査機関の信頼性としては随一ですので、まずはこちらのサイト上でデータを探してみてはいかがでしょうか。
調査の実施時期
いかに信頼性の高い調査機関によるデータであっても、調査の実施時期が古すぎる場合には注意が必要です。
消費者動向やニーズ、マーケットシェア率などは、年を追うごとに大きく変化していきます。それにも関わらず、数年前のデータを参照していたのでは意味がありません。
最新の市場動向を探るのが市場調査の目的ですので、できる限り、直近で集計された調査データを利用するようにしましょう。
調査対象の母数
意外に見落としがちなのが、調査対象の母数です。
調査対象の母数が少ないと、わずかな弾みでデータが大幅に変動してしまい、本来の結果から大きな誤差が生じてしまうことがあります。
こうした誤差のことを「標本誤差」と言います。
一般的に、標本誤差を10%以内に留められる最低のサンプル数は「100サンプル」だと言われています。しかし、別の説では「50サンプルもあれば十分」という声や、「正確性を求めるのであれば最低400サンプルは必要」という声も見られます。
このあたりの塩梅は、どこまで正確なデータを求める市場調査かによって異なりますが、最低限、参照したいデータの調査対象母数は事前にチェックしておくようにしましょう。
とりわけ、調査結果がパーセンテージで表されている場合などは母数の少なさに気付きづらいので注意が必要です。
調査対象の属性
調査対象の属性にも注意が必要です。
年齢や性別といった大枠の属性には注意できていても、たとえば、
- 都内在住の30~50代女性
- インターネット回線を利用している20代以上
- 不動産投資情報を公開している本サイトの会員
のように、細かな属性によってセグメントがかかってしまっているケースが往々にしてあります。
都内在住の人と地方在住の人ではニーズが大きく異なるでしょうし、インターネット回線を利用している人は、そうでない世帯に比べるとインターネットリテラシー水準が高いと想定されます。
不動産投資情報サイトの会員は、そうでない一般世帯と比べて所得や所有不動産数に違いがある可能性があります。
そうしたセグメントによるバイアスがかかったデータに踊らされないよう、調査対象の属性は細かくチェックしておきましょう。
まとめ
今回は、市場調査に役立つデータを公開している無料・有料のサイトを多数ご紹介してきました。
目的に合ったサイトやデータは見つかりましたでしょうか。
記事内でもご紹介しましたが、政府や民間企業が公開しているデータを元にした「統計データ調査」を行う際は、
- 調査機関の信頼性
- 調査の実施時期
- 調査対象の母数
- 調査対象の属性
上記4ポイントを必ずチェックするようにしましょう。
この記事が、充実した市場調査に役立ちましたら幸いです。